読者が不思議な感覚になってしまう、小林泰三氏のおすすめ作品10選をご紹介させていただきます。
1995年「玩具修理者」という作品で第二回日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞し、翌1996年に同作を収録した短編集「玩具修理者」で単行本デビューを果たします。
デビュー以降は論理を駆使した作風で、ホラー作品やSF、ミステリーのジャンルで活躍しています。
小林泰三おすすめの作品10選をご紹介~モダンホラーの旗手~
小林氏は日常感じたふとした疑問や、アイデア・イメージが元になっている作品が殆どだそうですが、それらを頭の中で再生していくことにより、自然とストーリーが膨らんでいくのだそうです。
読者を楽しませる作品を書くためには先ず、自分も楽しんで書くことが大切なんだそうです。
そんな小林泰三氏の作品を刊行順に10選ご紹介いたしますので、どうぞ楽しんでください。
1、『玩具修理者』
短編の「玩具修理者」と、中編の「酔歩する男」の2編を収録した話が綴られています。
タイトルの「玩具修理者」は、少女が死なせてしまった弟を、なんでも修理してくれる玩具修理者の元へ持っていく話です。
グロテスク系のホラーであり、何か得体の知れない恐怖みたいなものが、最後まで続いていきます。
もう一つの「酔歩する男」は、ホラーのようなSFの話であり、タイムスリップする男が主人公です。
現実に対してなんとなく不安が残るような、不思議な感覚に陥ってしまいます。
ここがポイント
どちらの話も、背後から誰かに見られているような感覚になり、背筋がゾクゾクするような作品です。
2、『人獣細工』
「人獣細工」「吸血狩り」「本」の3編収録した短編集になります。
それぞれが違ったテイストを醸しだしていて、表題作の「人獣細工」は少女に豚の臓器が移植されてしまう話です。
「吸血狩り」は8歳の少年が従姉を吸血鬼から守ろうとする話であり、「本」は宅配で届いた本を読んだものは一様に異常な行動を起こし自我崩壊していく話です。
ここがポイント
どの話も独特の恐怖に満ちていて、目の前に起きていることが、現実なのか、幻惑してしまいそうになります。
ホラー要素もSF要素も詰まっていて、大変楽しめる作品です。
3、『肉食屋敷』
4編ともジャンルの異なる、バラエティに富んだ短編集になります。
怪獣を蘇らせてしまった研究員の話「肉食屋敷」。
人の臓器や脳みそが、機械の部品や人造生物の一部として使われる話「ジャンク」。
ラブストリーかと思いきや、サイコの話「妻への三通の告白」。
本格推理と多重人格ミステリーが合わさった「獣の記憶」の4話です。
ここがポイント
ホラー、SF、ミステリーといろいろな味わいが楽しめて、飽きることなく楽しむことができます。
どの作品も一捻りが利いていて、読者の予測もうまく外してくれて、大満足できる作品です。
4、『海を見る人』
世界観が異なる、7編からなるSF短編集になります。
ここがポイント
大胆な発想と、綿密な構想に満ちた、幻想的風景の数々に出会うことができます。
描いている世界とは、時間の流れが違う、重力が違う、そして星すら全然違う色々な世界が舞台になっているのです。
不思議な感覚に陥ってしまう作品群です。
5、『家に棲むもの』
7編からなるホラー短編集になります。
ここがポイント
淡々とした語り口や、シニカルな屁理屈によるストーリー展開は、やがて幻想的な狂気の所業にすり替わっていくという、小林氏の得意とするバイオロジックが堪能できます。
どの話も最初の予測とは違う結末になっていて、先をなかなか、読むことができません。
ストレートな構成が光る作品です。
6、『脳髄工場』
書き下ろしを含めた11編が収録された短編集になります。
長編にしてもいいのではと思う作品や、短編だからこそ面白いという作品までが、ぎっしり詰まっていて、かなり楽しめます。
ここがポイント
とにかく一つひとつのストーリーの設定や、展開が斬新であり、飽きることなく楽しむことができます。
全体的に怖いという感覚よりも、奇妙な出来事がたくさん詰まっている、レベルの高いホラー短編集です。
7、『天獄と地国』
「海を見る人」に収録された短編「天獄と地国」を長編リファインした作品になります。
地面が上にあって、下の方には空があり、気を抜くと落ちてしまう真空で生き延びている人たちの話です。
ここがポイント
地面にぶら下がり、天に落ちていくという発想が面白く描かれています。
奇抜な発想が楽しめる、満足度の高い作品です。
8、『アリス殺し』
不思議の国のアリスを題材とした本格ミステリーであり、連続殺人事件を向こうの世界と、こちらの世界から調査していく話です。
冒頭から、不思議の国のアリスの世界を思わせる不思議な雰囲気の言葉のやり取りで、一気にアリスの世界へ引き込まれてしまいます。
と思いきや、現実の世界へ引き戻されてしまうのです。
ここがポイント
現実と不思議の世界が、交互に変わる世界によって、尚さらに世界の歪さが、浮き彫りにされていくのです。
超絶のミステリー・ファンタジーです。
9、『失われた過去と未来の犯罪』
全人類が10分前後の記憶しか保持できない異常事態に対して、何とか人類を存続させようとする話です。
序盤は異常事態に対して、原因となった日からその後の数日を描き、中盤以降は記憶を留める装置を各自の身体の一部に装着して過ごす世界を描いています。
ここがポイント
人間の記憶を外部記憶装置(メモリ)にして、身体と切り離せるようになった時代、それにより、人の魂は外にあるのか、はたまたメモリにあるのか問い続けていくのです。
人間の記憶の本質に深く迫る、SF作品です。
10、『パラレルワールド』
大きな災害に遭ったことがきっかけで、2つの世界を同時に生きることになってしまった、5歳の男の子ヒロ君。
片方の世界では母が亡くなり、もう片方の世界では父が亡くなっていて、父と母はお互いの姿が見えない状況なのです。
ここがポイント
パラレルワールドですが、視点を変えて家族の物語として見た場合、素晴らしく美しい作品だと感じてしまいます。
ラストに描かれる家族模様が、素敵に思える作品です。
まとめ
小林泰三氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しさが広がりますよ。