誰もが楽しめる作品を描く、又吉直樹氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大阪、北陽高等学校卒業後、芸人を目指して上京し、吉本総合芸能学院(NSC)に5期生として入学し、2003年に同期の綾部祐二と、お笑いコンビ「ピース」を結成します。
2010年には、キングオブコント2010で準優勝、M1グランプリで4位に入賞しています。
太宰治を敬愛する、読書家としても知られていて、芸人活動と並行して、文筆活動も行うようになります。
又吉直樹おすすめ作品8選をご紹介~自分の価値観を大事にする~
2015年1月に文芸誌、文學界に発表した「火花」という作品で、作家デビューを果します。
また同作は、第153回の芥川賞を受賞し、大きな話題を呼び、2016年にNetflixでオリジナルドラマ化、翌2017年には、板尾創路監督で、映画化されています。
2017年に、2作目の小説、「劇場」を刊行し、その後もエッセイや共著など、手掛けています。
そんな又吉直樹氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『第2図書係補佐』
吉本の劇場で、2006年3月~2009年7月の間に、発行されていたフリーペーパーの中で、又吉氏が書いていたコラムと、書き下ろしをまとめた作品です。
又吉氏の人生を支えてきた47冊の書籍が登場し、登場させながらも全く持って、書評ではありません。
ここがポイント
書籍の紹介を通して、自分自身の体験を綴り、文学愛があふれ、面白くて、温かくて、少し切なくて、どこかシュールな自伝なのです。
とても自分に正直で賢明な方でありながらも、それと同じくらいの面白さに思わず吹いてしまいます。
書籍を好きになった欲しいという想いが伝わってくる、とても素敵な作品です。
2、『東京百景』
東京の百景それぞれの場所をただ紹介するだけでなく、そこでの思い出や、その場所への思いについて綴られている話です。
随筆であり、掌編でもある独特な光景が次々に繰り出される不思議な読み子心地は、彼の日常に埋没しかねないものものを、見過ごさず、掬いあげている丁寧さからなのです。
それは又吉氏自身の特質と芸人であるが故の職業で磨かれた眼差しとの、融合の結果なのかもしれません。
それをこういう軽やかな自然の文章のような中に、表現できる又吉氏の力量には恐れ入ってしまいます。
ここがポイント
「火花」と「劇場」の原点となる作品であり、又吉氏の独特の感性も堪能できます。
3、『新、四字熟語』
又吉直樹氏が考えた四字熟語を書道家の田中象雨氏が、いろいろな字体で表現したものです。
又吉氏の強烈な個性と匂いと灰汁が漂ってくるような四字熟語に、思わず、笑いが堪えられなくなってしまいます。
ここがポイント
しかも、ただのお笑い熟語ではなく、深い目線で言葉の本質を射抜いているのです。
例えば「白服伽哩」は、白い服にカレーが飛散する様子から、美しいものに付く汚れは目立つと意味付けしているのです。
たとえば、落ちこぼれた者が、失敗しても誰も騒がないが、優秀な者の汚点には、世間の反応は滅法早いということです。
シニカルであったり、ただの体験話だったり、詩だったり、哲学だったりと盛りだくさんです。
また、又吉氏の言葉をさまざまな書体を駆使し、濃墨、青墨などで表現する田中氏の書もマッチしていて、素晴らしいです。
4、『火花』
駆け出しの芸人の徳永が、笑いのセンスが天才的な先輩芸人である神谷に、弟子入りする話です。
徳永は神谷に心酔するものの、神谷の才能は世間には、なかなか受け入れられず、二人の関係は次第に変化していくのです。
依存にも似た二人の関係性、違う価値観の二人が、自分の心に素直であろうと、もがきながら生きていくという印象を強く受けてしまいます。
とても人間らしくて、不器用で堪らなく愛おしい気持ちに、させられてしまうような感覚に陥ってしまい、自分に欠けている部分をお互いに補おうとしているようにも感じてしまいます。
ここがポイント
もしかして、自分が持っているものは、小さく見えて、他人が持っているものは、大きなものに見えていたのだと思います。
夢を断念せざるを得なかった青年の物語ですが、重くなり過ぎない絶妙なバランス加減に心酔してしまう作品です。
5、『夜を乗り越える』
又吉氏が「何故本を読むのか」というテーマに対して、真剣に考えて綴ったエッセイです。
思い入れのある小説を紹介しながら、自らの体験を振り返っていて、学校の勉強ができなかったことがコンプレックスになっているようですが、それでも本を読むことは、ロックやパンクにハマるのと似た情熱を動機として、良いということを強く訴えています。
ここがポイント
所謂、教養としても読書という考え方に染まると、学校の成績を気にして、本を読んでも無駄だという発想に陥ってしまうのです。
太宰や芥川の評論については、やや印象論のきらいはありますが、等身大で読書を楽しもうという作品です。
6、『劇場』
劇作家としてままならない生活を送る、若者の鬱屈した感情に溢れた話です。
素直になりたくてもどこか捻じれてしまうところなど、人間的な感情が、細かく表現されていて、夢を追いかける永田は、沙希の優しさに甘えて過ごしながらも、嫉妬から怒りの感情を表したりして、素直に感情表現が出来ないのです。
人間の隠しておきたい嫌な部分まで、細かく丁寧に描かれていて、人生の無常を感じてしまいます。
永田には演劇しかないのですが、その演劇で認められないという事実が、受け入れられず、周囲の人間を傷つけてしまうのです。
自分が空っぽだということを、自分を含めたいろいろな人に見透かされることが怖くて、取り繕ってしまったのです。
ここがポイント
ラストは優しくて、切なくて、温かく、人間の心の奥にある葛藤や矛盾、苦しみが丁寧に描かれている作品です。
7、『人間』
青春時代のどこにもぶつけることが出来ない感情、創作することの意義や苦しみ、人間臭くて面倒な部分が、感じられる話です。
人間の醜さ、汚さ、ひどさを描きつつ、影島と永山という二人を通して、又吉直樹という人間の核心に迫っています。
二元論のような簡単には割り切れない人間性の複雑さや、奥深さが描かれ、改めてこの世の息苦しさを感じてしまいます。
又吉氏のエッセイにもあるか如く、何となくこういうことを考えながら、人生を送って来たのではないかと想像してしまいます。
ここがポイント
この作品は、これまでの又吉氏の人生がある程度反映されている、私小説のような気がしてしまいます。
上手くいかないもどかしさに、とても共感できる作品です。
8、『月と散文』
人それぞれに価値観や考え方がありますが、散文を通して、又吉氏の大切にしている想いや価値観が感じられる話です。
ここがポイント
口数少ない又吉氏の脳内でのおしゃべりが、溢れていて、しかし嫌な気持ちにさせられることもなく、又吉氏の心の奥底に溢れている優しさに、温かくなってしまいます。
相方の綾部氏のこと、父親のこと、ネタのような面白いエピソードに笑ったり、しんみりしたりと、楽しませてくれます。
文章のリズムが、心地よく感じる作品です。
まとめ
又吉直樹氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
お笑い芸人が書いた作品ということで、なにかと話題になりましたが、とても素晴らしいものばかりです。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非、この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。