物語の世界を深化させる、染井為人氏のおすすめの作品6選を、ご紹介させていただきます。
染井氏は高校を卒業するまでは、サッカー一筋であったようなのですが、プロにもなれず、推薦で大学へ行くこともできなかったけど、サッカーへの夢は捨てきれず、卒業してからの2年間も、長野県、菅平のサッカー選手養成所で、サッカーを続けていたそうです。
しかし、20歳なる頃に地元の千葉に戻り、1年位、グループホームで介護の仕事をしていたのですが、突如、将来の生活に不安を感じてしまい、退職したそうです。
その後は派遣会社に就職するのですが、ある事件が起きて辞めて、その後、職に就いたのが、芸能事務所のマネージャーだったそうです。
染井為人おすすめ作品6選をご紹介~社会派ミステリーの新星~
自分の理想とする環境で働くには、小説を書くか、絵を描くしかないと思ったそうで、芸能マネージャー時代に初めて書いた「うちらのオーデション物語」という作品が、褒めてもらえたことで、作家にチャレンジすることを決めたようです。
そして2017年に「悪い夏」という作品が、横溝正史ミステリ大賞の優秀賞を受賞し、小説家デビューを果します。
その後も「正体」が、読書メーター注目本ランキング1位を獲得し、WOWOWの連続ドラマで、映像化もされています。
そんな染井為人のおすすめの作品6選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『悪い夏』
生活保護の不正受給をテーマにした、社会の暗部を炙り出す話です。
主人公の佐々木守は市役所の生活福祉課に勤務していて、生活保護の申請や、生活保護受給者の定期訪問などを担当しています。
ある日、同僚が、女性の受給者に生活保護の打ち切りの脅しをかけて、肉体関係に及んでいるという情報を耳にしてしまうのです。
そのことをを調査するために、同僚の女性と、その女性受給者のもとへ向かうのですが、これが、彼の悲劇の始まりだったのです。
登場人物全てが、ろくでもない人間ばかりであり、貧困ビジネスとして生活保護を使うヤクザ、保険点数を稼ぐために不要な薬や検査をしたり、仮病に診断書を出す医者、そして働きたくない親と、働いても貧困から抜けられない親などの人間が描かれています。
ここがポイント
人生に不満ばかりを言っていると、嬉しいことも楽しいことも、いつか感じられなくなってしまうのです。
いかに人間とは、脆く危ういものなのかと思ってしまう、背筋が寒くなる作品です。
2、『正体』
一家3人を惨殺し、18歳で死刑判決を受けた少年、鏑木慶一が脱獄し、身分を偽り、出会った人々と交流しながら事件の真相を探っていく話です。
ある目的を持った脱獄の488日間であり、名を変え、顔を変えて、逃亡中に出会った人々との刹那な繋がりから、垣間見える少年の人間性は、本来なら陽の当たる人生を歩めたであろう優れた能力を、搾取された姿に胸が締め付けられてしまいます。
ここがポイント
状況証拠による誤った情報操作の恐ろしさは、意外にも私たちのすぐ側で、隙をついて待ち伏せているのかも知れません。
日本の刑事裁判の有罪率や、警察の捜査方法に問いかける本作品には、心を揺さぶられてしまいます。
もし、自分や家族が冤罪事件に巻き込まれたならと思うと・・・。
読後のやるせない余韻が、かなり続いてしまう作品です。
3、『震える天秤』
認知症が疑われる老人による、ブレーキ踏み違え事故で、死亡事故が発生するのですが、その事故の裏に隠された真相を追う話です。
加害者の老人はその当時のことを何も覚えておらず、認知症が疑われてしまうのです。
ここまでの話だと、最近よくある高齢ドライバーの問題を扱った社会小説を想像するのですが、一人のライターによって、明かされる事実で、物語は全く予想もしなかった方向へ向かっていくのです。
事件を取材するために、加害者老人が生活する山間の村に、ライターである俊籐律が取材を進めていき、村人たちの言動に違和感を覚えてしまうのです。
彼の執拗な探求により、真実に最接近した時、彼は驚くような真実にたどり着いてしまうのです。
ここがポイント
いろんな人に接して、ひとつずつ真実を積み上げる、そうです、いつも問われるのは正義なのだとわかる作品です。
4、『正義の申し子』
引きこもりのユーチューバーが、振り込め詐欺実行犯をからかったことがきっかけで、展開していく話です。
大学受験を諦め、自宅にひきこもる純のもう一つの顔は、正義の申し子「ジョン」を名乗るユーチューバーであり、架空請求業者の手先として働く鉄平をネタに、動画を配信しているのです。
ここがポイント
ジョンになると過激な性格に変貌する純と、情に厚いが、切れると暴力に走る哲平が、直接対決する場面から、物語は急展開していきます。
ネットやSNS、DV、引きこもり、案外身近で危険な社会問題など、重くなりがちなテーマですが、ヤクザの喧嘩や女子高生の恋物語も交わって、テンションの高いコメディ感も満載です。
終わり良ければ、すべて良しの後味の良い作品です。
5、『鎮魂』
ヤクザまがいの行為で、一般市民を苦しめる、半グレ集団「凶徒聯合」のメンバーが次々に殺される事件の話です。
傍若無人な半グレ集団の幹部が一人ずつ殺されていく様子が、飽きさせない起伏のある流れで描かれています。
そしてその半グレ集団「凶徒聯合」を許せないと考えている人々の言動が、同時進行で展開していくのです。
ここがポイント
極悪非道な凶徒聯合に対し、彼らが抱く感情は、至極、真っ当なものなのですが、肥大化した正義感が暴走していく様子に、少し複雑な感情さえ抱いてしまいます。
半グレと正義派と警察という、三つ巴の争いは、緊張の連続であり、一気に頂点へと突き進んでいくのです。
やはり、憎しみからは、憎しみしか生まれないのだろうかと思ってしまう、作品です。
6、『海神(わだつみ)』
東日本大震災の復興支援金を巡る、詐欺事件を扱った話です。
NPO法人代表の遠田は、三陸沖の天の島に救世主の如く現れ、被災者を救う為、支援隊を立ち上げ、采配をふるい、島民たちの信頼を集めていくのですが、、、復興支援金を私利私欲に使っていたのです。
震災直後、2年後、そして真実が見えてくる10年後の3つの時期が、前後しながら進んでいきます。
遠田の内側に潜んでいた、自己愛と自己陶酔による地震に満ちたカリスマ性は、人の弱みに付け込み、弱者を食い物にしていたのです。
ここがポイント
混乱と絶望の中、誰が冷静な判断ができるというのでしょうか、主要人物だけでなく、復興を支えてきた島民の胸中も丁寧に描かれています。
震災で、悪党遠田のせいで、壊れてしまった心は、悲しいですが、受け止めなければならないのです。
明るい未来は必ず、やってくると信じて止まない作品です。
まとめ
染井為人氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみて下さい。
きっと、社会派ミステリーを堪能していただけると思います。