本格派推理小説の世界で不動の地位を築いている、森村誠一氏のおすすめ作品11選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、9年余りのホテルマン勤務を経て、作家活動に入り、1969年「高層の死角」という作品で第15回の江戸川乱歩賞を受賞します。
1973年には「腐蝕の構造」という作品で日本推理作家協会賞、1974年には「空洞の怨恨」で小説現代ゴールデン読者賞と文学賞を立て続けに受賞しています。
森村誠一おすすめ11選をご紹介~ニーズがある限り書き続ける~
2000年代に入っても、森村氏の創作に対する意欲は旺盛であり、2008年には「小説道場」という作品で加藤郁乎賞、2011年には「悪道」で吉川英治文学賞を受賞しています。
またこれまでの多くの作品が、映画やドラマで実写化されていて、小説好きな人だけでなく、多くの人を楽しませています。
やはり何と言っても、外せないのは「人間の証明」という作品ではないでしょうか。
同作は1977年に松田優作氏主演で映画化され、テレビにおいては2011年の韓国版を含めますと、6本ものドラマが制作されていて、その人気ぶりが伺えます。
そんな森村誠一氏のおすすめの作品11選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『高層の死角』
巨大ホテルのワンマン社長が密室で殺され、疑いをかけられていた美人秘書もその後、死体となって発見される話です。
ここがポイント
元ホテルマンの森村氏の経験を存分に盛り込んだ、アリバイ崩しの名作であり、これでもかという位に、崩しても崩しても再び立ちはだかるアリバイの壁が迫ってくるのです。
ホテル業務の細かい部分に拘ったアリバイの構造は、油断すると置いていかれそうになる緻密さに溢れていて、松本清張氏の「点と線」という作品を彷彿してしまいます。
未だ色褪せない傑作にして、江戸川乱歩賞、受賞作品です。
2、『新幹線殺人事件』
ひかり66号のグリーン車内で起きた殺人事件が、芸能プロダクションの争いに絡んでいる話です。
東海道新幹線開通の直後で大阪万博の頃であり、昭和40年代が舞台になっています。
万博のイベントプロデューサーの座を狙う、東西2大芸能事務所の女社長である、紀久子と明美の戦い。
そして、両者の番頭的マネージャーである、冬本と山口の彼女たちに寄せる想いが、事件に関わってくるのでしょうか。
ここがポイント
スターになりたい、成功したいと願う、タレントたちは、褒美につられてアブナイ橋も平気で渡ってしまったのです。
今読んでも色褪せない、様々な欲望の交錯が味わえる作品です。
3、『恐怖の骨格』
財閥の財産争いというよりも後継者争いに絡む、山岳冒険サスペンスです。
巨大財閥である、紀尾井グループのワンマン会長の令嬢姉妹が乗っていた小型飛行機が、北アルプス後立山で消息を絶ってしまいます。
それを聞いた姉妹の二人の婚約者は、それぞれ別に捜索隊をたてて、秘密裏に現場へ向かうのです。
莫大な財産が絡んでいて、人間の欲望が隠されているわけであり、様々な妨害などが発生してくるのです。
人名救助は二の次であり、個々人の様々な欲望が内在されていて、恐怖に慄く最高のサスペンス場面に遭遇します。
ここがポイント
様々な人間の野望と思惑が交錯する、ドロドロさを感じる作品です。
4、『人間の証明』
親子の情念、人間としての想い、そして、それぞれの考えが交錯する、すごく切ない話です。
地位と名誉を得た女性評論家には、かって進駐軍の黒人兵との間にできた隠し子がいたのです。
そしてその子供が大きくなり、母を訪ねて、アメリカから彼女の元を訪れた時、彼女は人間を喪失したのです。
ここがポイント
そして彼女が人間の証明を得るのは、全ての地位と名誉を喪った時だったのです。
「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」という切なくも透き通るような、西條八十の詩に心が揺さぶられる作品です。
5、『悪魔の飽食』
三千人余りの捕虜を生きたまま生体実験材料として殺害し、細菌兵器の研究開発に及んだ731部隊の話です。
太平洋戦争時、満州で行われた日本人特殊部隊による、生きた人間に対する生体実験を暴いています。
中国人、ロシア人、モンゴル人の捕虜を「丸太」と呼び、人間扱いせず、その非人道的内容には目を背けたくなります。
ペストなどの細菌実験、凍傷、解剖、血液実験など、生身の人間を対象として、平然と行っていたのです。
ここがポイント
敗戦国であるが故に、いかに日本人がひどい目にあわされたかという事実は数多くありますが、この作品は加害者としての日本人を浮き彫りにしています。
戦争することの愚かさが伝わってくる作品です。
6、『星の陣』上・下
旧日本軍の老兵7人が、暴力団に復讐していく話です。
町を牛耳るヤクザの黒門組に娘夫婦と孫の命を奪われ、抜け殻と化していた元陸軍中隊長の旗本が、殺された娘と面差しの似た女性と知り合い、活気を取り戻していきます。
しかし、その女性も黒門組により、輪姦され、殺された後も凌辱を受け、玩ばれたことを知り、旗本は壮絶な復習の決意を固めるのです。
そして古き日の戦友に協力を仰ぎ、戦時中に山中に隠していた武器を手に7人で暴力団に戦いを挑んでいくのです。
ここがポイント
堪忍袋の緒が切れるシーンは圧巻であり、絶対に許さないぞという勢いが伝わり、爽快感が味わえる作品です。
7、『野生の証明』
過疎地域の山村で起きた大量虐殺事件で、生き残った、一人の少女と共に展開していく話です。
事件から2年、他県の町に謎の男と10歳の少女が現れるところから、新たな事件の幕が上がっていきます。
第一の事件の容疑者が第二の事件の探偵役という入れ子構造になっていて、主人公、味沢は次々に起きる事件の謎を追いながら、社会悪と闘っていくのです。
ここがポイント
人間の弱さと強さ、人生の非情、容赦のない現実が、まざまざと表現されている作品です。
8、『コールガール』上・下
銀座の高級クラブ「庵」で密かに行われている特殊接待、そしてその周りで起きる殺人事件の話です。
政財界の大物が集うクラブを舞台に、そこを切り盛りするママと女性たち、そして、そこに集まる一定の成功をおさめ、さらに勢力拡大の戦いを繰り広げている男たちの交流が描かれています。
また、利権に絡む国際的な諜報戦もかなり面白く、昨今のあからさまな官能系の小説とは一線を画しています。
ここがポイント
人間関係や企業間の駆け引きまでも緻密に描かれていて、予想もつかない展開が味わえる作品です。
9、『人間の天敵』
会社人間を主人公にした、組織と個人という対比をモチーフにした4編からなる短編集です。
家族に見向きもされなくなった男、夢半ばで散った友人を見て脱サラに勝負をかけた男、終の棲家で第二の人生を楽しみ始めた男、気のゆるみから自分を追い込んでいく男など、それぞれがそれぞれのやり方で会社という組織と戦っている姿が描かれています。
ここがポイント
保身こそが人生の重荷を増幅させるという事を、象徴的に表現していて、人間の天敵は人間の欲望であると共に、その人間自身であると思えてきます。
森村氏のこだわりが随所に見られる作品です。
10、『悪道』
五代将軍、徳川綱吉の急死を受け、大老格の柳沢吉保は己の権力を保持するために、影武者を起用する話です。
そして、その綱吉の死の事実を知る者を皆殺しにするため、暗殺集団の猿蓑衆に命じるのです。
伊賀忍者末裔の英次郎は影の存在に気付き命を狙われるも、天才女医のおそでを護りながら、難局を乗り越えていくのです。
また、江戸城では生きる屍のような影武者が、このまま飼い殺しにされてたまるかと、機を伺っていたのです。
ここがポイント
人間の業を問う、時代作品です。
11、『捜査線上のアリア』
殺人事件の容疑者にされた売れない作家が、その事を題材に書いた小説が、ベストセラーになって、新人文学賞まで受賞してしまう話です。
しかし、この殺人事件の背景には、貴金属時価2千億円窃盗グループによる関与があり、盗品の分配方法を巡る仲間割れの結果の殺人事件だったのです。
ここがポイント
事件が解決するように思われたのも束の間、あとがきで森村氏による悪戯な趣向が凝らされていたのです。
それまでの推理小説にはない、いろいろな仕掛けが施してあり、かなり楽しめる作品です。
まとめ
森村誠一氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
ミステリー作家として、一時代を築いた森村氏の作品は、心に残るものもたくさんあります。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。