奇妙な理論を真面目に突き詰める作風の、円城塔氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、さらに博士の学位を取得するために、大学院の博士課程に進んでいます。
その後は各大学の博士研究員として働いていたのですが、34歳の時に次年度の研究費と給料を得る見込みが無くなったので、転職を決意します。
2007年に一般の会社のウェブ・エンジニアとなりますが、翌2008年に退職して、専業作家になります。
円城塔おすすめ作品8選をご紹介~独特の論理展開で魅了する~
研究の合間を縫って書き留めていた作品を各文学賞に応募し、2007年「オブ・ザ・ベースボール」という作品が、第104回文學界新人賞を受賞し、この作品がデビュー作となります。
その後も数々の文学賞にノミネートされ、2012年に「道化師の蝶」という作品が第146回の芥川賞を受賞します。
影響を受けた作家として、安部公房氏を挙げています。
奥様はホラー作家の田辺青蛙氏であり、奥様のペンネームにちなんで、カエルのピンを身につけているそうです。
そんな円城塔氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『オブ・ザ・ベースボール』
難解で実験的な二つの中編「オブ・ザ・ベースボール」と「つぎの著者につづく」が収められています。
「オブ・ザ・ベースボール」はほぼ一年に一度、人が降ってくる町の話であり、どういう意味が込められているのか良く分かりませんが、それを気にしないで読めば、奇想天外な物語が楽しめます。
叙情性のあまりない、乾いた文章が印象に残ります。
「つぎの著者につづく」の方は、更に難しい内容であり、架空の作家の紹介から、書物の迷路に誘いこまれてしまいます。
ここがポイント
二作品とも、読む者を弄ぶような、奇妙且つ整った文章に掴みどころのない淡白な雰囲気と展開があります。
良く分からないという感覚が、逆に楽しくなってしまう作品です。
2、『後藤さんのこと』
物理や数学などの法則を、そのまま物語にした様な6編+αの短編集です。
いつもの理屈と論理で迷宮入りする話に加えて、文字色とその背景色、文字の配置、文字の形など、いろいろとやっている話などが描かれています。
さらに、いかにも理系的な発想を随所に見ることができ、小説でありながら、物理学的な発想法との相関性も高いように思います。
ここがポイント
まさしく思弁小説であり、数学的、物理学的な想像力を拠所にして、ひたすら形而上学的な物語が紡ぎ出されているのです。
巧妙な言葉遊びと、論理の自己展開が非常に美しい作品です。
3、『Self‐Reference ENGINE』
時空が混乱した世界で起こる、奇妙な出来事を綴った22編からなる短編集です。
世界では時空や宇宙に関係なく、様々なイベントが開催されているのです。
そして一見すると無関係そうなそれらのイベントは、私たちの知らぬ間に複雑に絡み合って、一つの世界を形成しているのです。
本作品はそんなイベントが互いに干渉し合って、世界を創る瞬間のカルタシスを楽しむ作品なのです。
これらの話は、いつでも終わらせることができるし、いくらでも続けることだってできるのです。
ここがポイント
独特過ぎる描写や、その世界観に圧倒される作品です。
4、『これはペンです』
叔父と父を巡る2つの話であり、キーワードは「タイプライター」と「壁の中」です。
プログラムで生成されたような情報量の文章と言語感を意識してしまいます。
小難しくて、でたらめに書かれているようにみえるし、語感がプログラムとして、連結しているセンスが楽しめます。
掴みどころがありませんが、却ってそこが堂々としているから、読んでいても心地良い曖昧さを感じてしまいます。
ここがポイント
分かったようになってしまう文章にセンスを感じ、重厚なのに軽く読めそうな文章にユーモアを見つけてしまいます。
いろいろなものが複雑に交差して、分かるようで分からない、分からないようで分かる感じが楽しめる作品です。
5、『道化師の蝶』
「道化師の蝶」:多言語を操り、奇怪な原稿を世界中に残す作家の友幸友幸を巨体の実業家であるA・A・エイブラムス氏が捜し続ける話です。
章ごとに視点が入れ替わり、幻惑の世界へ引き込まれてしまい、何が現実で何が虚構なのか分からなくなってしまいます。
「松の枝の記」:互いの作品を翻訳し合う男女が、原稿の紛失を巡って男と会うことを決めた女が、彼の姉を名乗る人物と出会い、彼の秘密を知る話です。
彼と彼女の存在の仕方、関係の在り方が尊くて、少し切なくて、愛おしくなってしまいます。
終盤の描写は秀逸であり、言葉にし難い爽やかな気持ちが溢れ出てきます。
ここがポイント
2編共、不思議な感覚に陥ってしまいそうになる作品です。
6、『バナナ剥きに最適の日』
哲学なのか科学なのか、そんな作者の魅力が詰まった9編からなる短編集です。
目の前の小さなことから、宇宙の心理など、ありとあらゆる事象に対する円城氏の考察がつらつらと描かれています。
物語の内容を追う事よりも、文章を読むという行為そのものが、快楽に繋がる人にはかなりおすすめできる感じです。
ここがポイント
絶対的な孤独感を前にして、そういうものだと割り切って、端から立ち向かっていくことを諦めているのに、それでも、せめてもの抵抗を試みるような感じも伺えます。
読んでいて、何となく心地よくなる不思議な作品です。
7、『プロローグ』
小説自体を徹底的にデータとして扱ってみようとする話です。
所謂、書くことについて書かれた小説であり、プログラムを組んで使用文字をカウントしたり、文字同士の繋がり方を考察しているのです。
データとしてもテキストの有用性が分かり、文体や執筆中の思い付きや、文章の自走などにも言及していたりもします。
言葉や文章、そして物語というものには、やはり無限の広がりを感じずにはいられなく、言ってみればそのことを数学的に証明されたような気分になります。
ここがポイント
編集や出版に関する円城氏自身の思惑が、透けて見える部分は確かに私小説ですが、高密度な広がりを見せる終盤に至っては圧倒的にSF作品です。
8、『文字渦』
文字というものを多角的に探究した12編からなる短編集です。
文字とは奇瑞と記し、凶兆を知り、天を動かすためのものであり、個人の為に作られたものではなく、集団に与えられたものなのです。
漢字、かな、字体、ルビ等文字にまつわる様々な要素が、使役される存在というより、むしろ自在に変化、増殖、進化してこちらを翻弄してくるのです。
ここがポイント
どこかで聞いた話が文字の話に置き換わっていたり、目前の文章や文字の存在を否定しながら話が進んでいったりといつもの調子で、膨大な背景知識と文字情報がギッシリと詰まっています。
目で文字と戯れる楽しさを堪能できる作品です。
まとめ
円城塔氏の作品は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
かなり難解な作品もありますが、その中に一歩足を踏み入れると、もう脱け出れなくなってしまいそうになります。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しさを堪能してください。