人間の思惑を丁寧に描く、木内昇氏のおすすめの作品を8選ご紹介させていただきます。
大学卒業後、出版社勤務を経て独立し、インタビュー雑誌を主宰したり、フリーランスの編集者、ライターとして活躍します。
2004年に「新選組幕末の青嵐」という作品で作家デビューを果し、さらに2008年に執筆した「茗荷谷の猫」で翌2009年に第2回早稲田大学坪内逍遥大賞の奨励賞を受賞します。
木内昇おすすめ作品8選をご紹介~個々人の姿を細やかに描く~
そして、2011年に「漂砂のうたう」という作品で、第144回の直木賞を受賞します。
描く小説の舞台が江戸、幕末から明治期、昭和前半位が多い理由は、時代の変遷期を取り上げたいという気持ちがあったそうです。
また、幕末に特化して言えば、黒船来航という外圧があったにせよ、改革派が自分たちの力で、内部変革を起こしたいという、時期であったから、その面白さや魅力に憑りつかれてしまったようです。
そんな木内昇氏のおすすめの作品8選をご紹介しますので、お楽しみください。
1、『新選組 幕末の青嵐』
新選組の結成から、鳥羽伏見の戦いまでの人間群像を新選組面々の視点から描いた話です。
ここがポイント
幕末の時代を生き急ぐように駆け抜けた、新選組のことが、章ごとに登場する人物の、いろいろな視点で隊内や人となりを見ることができ、とてもよく分かります。
隊士それぞれの想いが丁寧に描かれているので、思わず感情移入してしまいます。
武士になる夢が叶った高揚感と、そして瞬く間に崩れてしまう悲劇の対比に、寂莫感を感じてしまいますが、その後の展開は分っていても、いやが上でも盛り上がってしまいます。
激動の時代のうねりの中で、鮮やかに散っていった若い命が涙を誘い、厳しさの中にも優しさや切なさがある、胸を熱くする作品です。
2、『新選組裏表録 地虫鳴く』
新選組の中でも無名の隊士たちに焦点をあてた、光を求めて闇雲にはしる男たちの生き様を描いた話です。
阿部、尾形、篠原などの無名の隊士の視点で描いた新選組の姿は、前作の幕末の青嵐とはまた一味違った泥臭さがあります。
御陵衛士として、伊東と共に、新選組を離脱した、一派の話が多くあり、彼らには自分たちの志や思いがあり、離脱という選択に至ったことが分かります。
ここがポイント
華やかな主役がいれば地味な脇役もいるのが、人の世の常であり、新選組にもそんな脇役がいたのです。
登場人物の短い科白が魅力的であり、それぞれの人間の思惑が丁寧に描かれている作品です。
3、『茗荷谷の猫』
幕末から昭和の時代に至る、真直ぐで不器用で、それぞれの人生を懸命に生きる人たちを描いた9編からなる連作短編集です。
すれ違うことのない、人間たちが、時空を超えて、土地を縁として結びついていきます。
流れゆく時の中、あの時代のあの人や物が、通り過ぎていく瞬間、繋がる瞬間に何かしらの感動を覚えてしまいます。
時が移り、時代が変わっても、人は生まれ、悩み、そして死んでゆくのです。
市井の人たちの喜びも悲しみも振り返れば忘却の彼方であり、この世は夢か幻かなのです。
ここがポイント
不思議で長い旅をしていたかのような感覚に陥ってしまう作品です。
4、『漂砂のうたう』
明治維新後、武士を捨てた男が、廓の中で生きがいを見つけることができず、悶々と生きていく話です。
時代が大きく変わろうとしている、まさにその中で、翻弄され、流され、あるいは新たな好機を捉えて、変身していく、そんな時代のうねりを受けて、生きている人々の姿を感じてしまいます。
儚くも哀しくて、それでもその中で、僅かな光を求めていこうとする、生き様や空気感が何とも辛くなってしまいます。
ここがポイント
厳しい時代の流れの中でも、強く生きようとする者の意気と、光を見出すことができない者が対照的に際立つ作品です。
5、『笑い三年、泣き三月。』
戦争を生き延びた男3人が、ぼろアパートで共同生活を始める話です。
終戦後、生活に困った人たちが、肩を寄せ合って暮らしていく様子が、ユーモアたっぷりに描かれているのですが、どこかほろ苦くもあり、切なさも感じてしまいます。
徐々に世の中の景気が回復していくと同時に、おかしな共同生活にも幕が引かれて、新境地で逞しく生きていく姿に元気がもらえます。
ここがポイント
明るい未来を目指そうとする人間の力強さ、逞しさが見事に伝わってきます。
悲惨で苦しい時にこそ、笑い飛ばせるくらいの気持ちを持ちたいと思える作品です。
6、『櫛挽道守』
神業と呼ばれるほどの凄い櫛職人の父親に憧れ、その技を受け継ごうとした一人の女性、登勢の人生が綴られています。
女性が職人になる事など、あり得なかった時代に、櫛を挽くことのみを追い続けた生き様に、魅入られてしまいます。
そして、ひたすらに、ひた向きに櫛を挽く光景は厳かであり、美しさに溢れています。
ここがポイント
自分の一生を懸けるものを見つけ、迷うことなく突き進む登勢の芯の強さと、家族への優しさが伝わってきます。
ブレることなく進む登場人物達の生き様に、胸をうたれる作品です。
7、『よこまち余話』
現在・過去・未来が交錯する不思議な路地を舞台に、様々な人間模様が描かれる話です。
生きた時代も生活も人間も違うはずなのに、何故かとても懐かしい気持ちになり、そして、最後には別れが哀しくて、寂しくて、切なくなってしまいます。
或る長屋で慎ましやかに暮らす人間模様の中に、かって日本人が大切にしてきた、思いが見えるような気がします。
この世ならざる者たち、彼岸と此岸の境目やほつれ、ここで描かれている世界は、怪奇譚やファンタジーという言葉では表現することのできない独特のものなのです。
ここがポイント
異次元に連れていかれそうになる作品です。
8、『光炎の人 上・下』
徳島の貧しい農家から、電気を使った機械の力に魅入られて大阪に出てきた、貧しい農家の三男、郷司音三郎の成長物語です。
明治から大正の時代に電気に魅せられ、一心不乱に研究をして、突き進んでいく音三郎の姿が描かれています。
しかし、純粋な気持ちで、懸命に学んでいた音三郎が、次第にその情熱は歪んだものになり、自分の経歴も偽ってしまい、誰よりも優れたものを作り、世に知らしめたいという想いだけに憑りつかれ、変貌していくのです。
学歴のコンプレックスが人生を狂わし、ただ自分が開発した技術を実用化したかっただけなのに、軍との関わり合いができてしまってからは、自分の開発した技術が、どう使われるのか、見えなくなっていくのです。
ここがポイント
時代に翻弄される人間の、切なくも衝撃的な作品です。
まとめ
木原昇氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
木原氏なりにその時代を捉えた表現は、その筆致と斬新さに魅入られてしまいます。
まだ、読んでいない作品が、ありましたら、是非この機会に読んでみてください。