押しも押されぬ、ミステリー作家である、宮部みゆき氏のおすすめの時代小説11選をご紹介させていただきます。
宮部氏はミステリー作品だけでなく、非情に優れた楽しめる時代小説も世に送り出しています。
宮部氏の時代小説は分かり易い表現で、登場人物のキャラクターや心理描写もしっかりしているので、読み易くなっています。
宮部みゆき時代小説おすすめ11選をご紹介~江戸の情緒に酔いしれる~
優しさと粋が溢れる街である江戸の市井の人々の暮らしには、温かさや可笑しさ、切なさなどが散りばめられているのです。
ほろり涙の人情話や、くすりと笑ってしまう喜劇、ちょっと怖い怪談話まで、バラエティーに富んだ話が詰まっています。
そんな江戸情話と人情味タップリに描かれた、宮部みゆき氏のおすすめの時代小説11選をお楽しみください。
1、『本所深川ふしぎ草紙』
本所深川七不思議を題材にした、下町人情の世界が詰まった7編からなる短編集です。
岡っ引きの回向院の茂七親分がどの話にも絡んでいて、事件を解決していくのですが、内容としては人情物になっています。
謎解きの面白味に加え、市井を生きる普通の人たちが、切なくも見せる情感をしみじみと感じさせる物語を読み味のいい文章で楽しませてくれます。
ここがポイント
人の心の絡ませ方、誰も知らない一面の見せ方が印象的であり、そして絶妙な間合いでの、茂七親分の数々の言葉が、心に響いてくるのです。
常に深川一帯の皆の人生を気にかけて、見守ってくれているような眼差しが堪らないのです。
味わい深く余韻が残る作品です。
2、『かまいたち』
宮部みゆき氏、初期の時代物で4編からなる短篇集です。
江戸の街を震撼させる辻斬り事件を描く「かまいたち」、奥州街道のとある旅籠に泊まる奇妙な客の話「師走の客」、そして現在でいうところの超能力を持つ、お初が怪事件に遭遇する「迷い鳩」と「騒ぐ刀」の4話です。
ここがポイント
どの話も重すぎず、軽すぎず、小気味よい語り口で描かれているので、飽きることなく楽しめます。
初期作とは言え、安定の宮部ワールドが堪能できる作品です。
3、『幻色江戸ごよみ』
江戸の下町を舞台にした、恐ろしくも悲しい人情噺と怪異譚を描いた12編からなる短編集です。
不思議な現象や曰く付きの品物などを通して、主人公たちが抱える苦しみや悲しみなどの秘めた想いの行く末が描かれています。
人の想いは時として不可思議なものを呼び寄せ、そしてそれは本当の怪異かもしれないし、偶然による幻かもしれないのです。
ここがポイント
ささやかなものしか、望んでいない者にも、世の中の厳しさは訪れてしまうものなのです。
何とも言えないこの世の哀歌と、心に染み渡る粒ぞろいの作品が堪能できます。
4、『初ものがたり』
本所深川ふしぎ草紙に狂言回しとして登場した、岡っ引きの回向院の茂七親分の活躍を描いた9編からなる短編集です。
初鰹や白魚のような季節の風物詩が各話に織り込まれ、江戸に生きる人々の暮らしぶりが、伝わってくるようです。
ひとつ特徴的なのは、親分行きつけの稲荷寿司の屋台であり、そこの親父との雑談から、事件解決のヒントが閃いたり、思わぬ有益な情報を得たりするのです。
ここがポイント
そしてこの不思議な屋台の親父こそが、和風ミステリーである本作の最大の謎なのですが、果たしてその正体は・・・。
謎解き、哀しい人間模様、温かい人情などが味わえる作品です。
5、『堪忍箱』
江戸の下町の人たちの生き様や感情が、生々しく伝わってくる8編からなる短編集です。
どの話も読み始めるやいなや、その主人公の気持に寄り添えるので、たちまち江戸時代にタイムスリップした気分になってしまいます。
人間の心の闇、仏の顔と鬼の顔、晴れの日ばかりでない人生の哀しみが描かれています。
ここがポイント
昔の人も現代人と人間性に変わりはなく、それぞれに心に秘密を抱えて、悩み苦しんでいたのです。
悩みを一人で抱え込んで思い詰めずに、誰かに相談したり、上手く発散したりして、深刻にならないことが大事なのです。
文章に不自然さがなく、江戸時代の街中に引きずり込まれるような感覚になってしまう作品です。
6、『ぼんくら』上・下
ぼんくらシリーズの第一弾であり、ぼんくら同心である井筒平四郎が、鉄瓶長屋で起きた不可解な事件を美少年の河合弓之助らと共に、解き明かしていく話です。
ここがポイント
江戸深川の鉄瓶長屋で、店子が一人二人と消えていく理由は、事件の裏に見え隠れする、湊屋と十七年前のある出来事が絡んでいたのです。
長屋の支配構造や警察権力の在り方、庶民の生活が分かり易く描かれていて、同心、井筒平四郎のぼんくらでありながらも、憎めない人柄に引き込まれてしまいます。
何でも計ってしまう癖のある弓之助や隠密の黒豆、政五郎、おでこ、烏の官九郎など個性的なキャラも面白く楽しめます。
緻密なスローリー仕立てに感服する作品です。
7、『あかんべえ』上・下
料理屋ふね屋の娘である、おりんがたくさんのお化けと出会い、多くの謎を解き明かすため、いろいろと考え行動する話です。
江戸深川の大工町に「ふね屋」という料理屋を開店したおりんの両親でしたが、引越してすぐに、おりんが原因不明の重い病にかかり寝込んでしまうのです。
おりんが気付くと、どうやら三途の川の近くにいて、何とか生き返ったと思ったら、お化けさんが見える能力が備わっていたのです。
亡霊とは言え、五人の人情味あふれるお化けさん達とおりんの心温まる交流と、お化けさんが引き起こす騒動から圧巻のクライマックスへの展開が楽しめます。
ここがポイント
ファンタジーあり、江戸の人情あり、ふね屋のご馳走ありと色々な味わいがある、エンターテインメント作品です。
8、『狐宿の人』上・下
江戸から金毘羅さんに代参としてやって来た9歳の「ほう」は、讃岐国の丸海に置き去りにされたのですが、幸いにも藩医を勤める井上家に引き取られ、引手見習いの「宇佐」と二人して、この物語の語り部、監察者となる話です。
加賀様の幽閉されている屋敷で、下働きをすることになった「ほう」と、引手を辞め荒れ寺の中円寺に住みこむ「宇佐」、そうしているうちに、加賀様悪霊説が丸海藩を覆い、その大きなものの影で、様々な私利私欲が蠢いていくのです。
噂から恐怖が蔓延して、どんどん膨れ上がって、はじけていくのです。
ここがポイント
そんな中、何も知らない純粋な「ほう」と、聡く真直ぐな「宇佐」が、大人たちの思惑に振り回されながらも、立ち向かっていく姿は痛々しくも温かく、胸に沁みます。
噂や迷信の類が、今よりも信じられやすい時代背景だったとしても、情報に振り回され、混沌していくさまは、現代に通じる気がする作品です。
9、『おまえさん』上・下
ぼんくらシリーズの第三弾であり、筒井平四郎が連続殺人事件の解明に挑む話です。
生薬屋の主人、調剤人、夜鷹の三人が、同じ手筋で斬り殺されるという連続殺人事件が勃発してしまいます。
どうやら復習らしいという見立てで、平四郎や政五郎の聞き込みから、次第に明らかになる過去の因縁の数々が見えてきます。
同心仲間に新しく十手術の名手の間島信之輔も加わり、ますます面白味が増してきます。
後半はまさかの急展開となり、謎解きやいろんな顔をみせる登場人物など、枝葉の部分をたっぷりと堪能した感じになります。
ここがポイント
謎解きが終わってからもなお、退屈せずに読むことができる、展開の思い付きの凄さに恐れ入ってしまう作品です。
10、『桜ほうさら』上・下
藩のいざこざの生贄として、父が切腹に追い込まれ、そんな父の汚名を晴らすために江戸に出てきた古橋笙之介の話です。
父親の汚名を晴らそうと江戸に出てきた笙之介は、侍としては気が弱く、剣の腕もないのですが、書が得意な青年なのです。
江戸留守居役の計らいで、富勘長屋に住まうことになり、写本の仕事を請け負いながら、書を通じて謎に挑んでいくのです。
ここがポイント
人情に厚い長屋の人々や桜の精との出会いが、笙之介の心を癒してくれます。
お家騒動あり、親兄弟間の確執あり、謎解きあり、恋花ありと、読みどころ満載の作品です。
11、『きたきた捕物帖』
フグにあたって死んだ千吉親分の手下である、取柄のない北一が、その誠実で頼りない人柄ゆえに周りに助けられて、なんとか事件を解決していく話です。
安楽椅子探偵の如く、千吉親分の盲目のおかみさんや、やがて相棒となる喜多次や周りの人たちの協力を得て、事件や不思議な出来事を解き明かしながら、北一は成長していくのです。
そしてついにあの稲荷寿司屋の親父さんの正体も明かされるかもしれないのです。
会話の合間合間に、北一の脳内ツッコミのような心の声がテンポ良く挟まるので、長編ですが飽きることなく面白く楽しめます。
ここがポイント
間違いない安定の面白さが味わえる作品です。
まとめ
宮部みゆき氏の時代小説のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
バラエティーに富んだ、お話は満足していただけたと思います。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
もう一つの宮部ワールドを思う存分味わってください。