幅広い作風で楽しませてくれる、柳広司氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、会社勤めを経て、1998年に『拳匪「ボクサーズ」』という作品で、歴史群像大賞の佳作を受賞します。
2001年に原書房から刊行された「黄金の灰」という作品で作家デビューを果し、同年、『贋作「坊ちゃん」殺人事件』で第12回朝日新人文学賞を受賞します。
柳広司おすすめ作品8選をご紹介~ユーモアと愛を奏でる描写~
作品は書きたいから書いている、というよりも、読みたいから書いているのだそうです。
こんなのがあったら、読みたいなと思うような作品を心掛けているのであり、自分自身が一番最初の読者なのだそうです。
歴史上の史実や有名人を絡ませて、ハードボイルドなミステリー作品から、ユーモラスな謎解きまで、幅広い作風で楽しませてくれます。
そんな柳広司氏のおすすめの作品を8選ご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『贋作「坊っちゃん」殺人事件』
文豪、夏目漱石の代表作である「坊っちゃん」の後日談の形を取った、驚きの真相?を解き明かす話です。
松山から東京に戻って3年が経ったある日、偶然にも山嵐と出会い、教頭であった赤シャツが自殺したことを聞かされます。
しかしそのことがどうしても腑に落ちなく、山嵐と共に松山に戻り、真相を探っていきます。
原作でお馴染みの人物が総登場し、懐かしくもあり、原作を思い出してしまいます。
ここがポイント
原作を丸ごと事件に変えてみせ、エンターテインメント性の高いミステリーに仕立てながら、坊っちゃんの新たな解釈を提示している作品です。
2、『吾輩はシャーロック・ホームズである』
ロンドン留学中の夏目漱石が、精神を病んでしまい、自分をシャーロックホームズだと思い込んで、ベーカー街221Bでワトスンと共同生活を送り始める話です。
そんな中、二人が参加した降霊会で霊媒師が毒殺される事件がおこり、その真相究明に挑んでいきます。
ホームズを真似た推理が、見当違いだったり、一目惚れした女性の前で、無様な姿を晒したりと、コミカルな夏目漱石氏が描かれています。
ここがポイント
殺人事件の解明という本筋もなかなか楽しめますが、30代前半にロンドンでの単身生活に苦しんでいた若き漱石の姿や帝国主義戦争への批判などの脇筋も魅力的です。
当時のイギリス人や日本人の価値観なども盛り込まれていて、楽しめる作品です。
3、『トーキョー・プリズン』
行方不明の知人の情報を探しに来た、私立探偵のフェアフィールドと戦時中の記憶を失った囚人である貴島の二人が殺人事件の謎に挑む話です。
ミステリーとしての謎解きの面白さ、そしてキャラクターの魅力と太平洋戦争の恥部が奇妙に融合しています。
貴島という天才的頭脳を持った記憶喪失の戦犯と一緒に推理をするニュージーランド人の探偵のフェアフィールドと妙な組み合わせなのです。
ここがポイント
戦後の混乱、昭和の空気感を感じないネオ・トーキョーとも言うべき舞台で、ミステリーとして絡まった糸がほどけていくような爽快さと面白さを感じます。
真実が明らかになる度に色々な驚きがある作品です。
4、『ジョーカー・ゲーム』
昭和前期に極秘に設立された、スパイ養成学校である、「D機関」の話が5編からなる短編で構成されています。
ここがポイント
スパイとしての教育が施された男たちの活躍が描かれていて、天皇を崇拝し、死ぬことを誇りとする陸軍軍人と、死ぬことや殺すことはスパイ最大の失態とするD機関との対比が、随所に見ることができます。
超人揃いの諜報員の中で、彼らを統括するインテリジェンスマスターの結城中佐の超人ぶりが際立っています。
陸軍に染み付いた当時の偏執した思考回路などを、バッサリと切り捨てるスパイの鉄則を清々しく感じてしまいます。
いかなる手段を用いても、生きて任務を遂行しようとするスパイたちの姿に、生きる事への本能が刺激される作品です。
5、『ダブル・ジョーカー』
ジョーカーゲームの続編であり、D機関のライバルである風機関との対決の話が詰まった6編からなる連作短編集です。
ここがポイント
スパイとしての色々な在り方が、淡々と描かれていて、同じ教育を受けても、実践の場では生きた人間を相手にする故、その作戦に個々の特徴が出てくるのです。
殆んど表に出ることなく、常に闇に紛れるかのように活動する諜報機関同士の競争や、秘密に満ちた諜報員の仕事の様子などを含めて、知力、体力の極限を試されるような緊迫感のある場面や、自己の力を過信した相手を痛快に出し抜いていく場面などが印象的です。
スパイの仕事を見事に表現している、今までになかったスパイ小説作品です。
6、『パラダイス・ロスト』
スパイ集団のD機関を描いたシリーズ3作目であり、短編3作、中編1作の安定の世界観が詰まった話です。
前編を覆う昭和初期の陰鬱な空気感と、極端なまでの冷静さと冷酷さを合わせ持つ各編の主人公、そして、バリエーションに富んだ設定と展開が堪能できます。
ここがポイント
ここにきて完成度があがり、各エピソードのスパイが、単なる使い捨てのようなキャラではなく、魅力あるキャラに仕上がっています。
毎回予想を裏切ってくれる展開にワクワクする作品です。
7、『ラスト・ワルツ』
シリーズ4作目であり、短編2作、中編1作で構成された、スパイとして生きる男たちの潔さとカッコ良さが堪能できる話です。
ここがポイント
D機関の面々が安定の暗躍ぶりであり、舞台となっているのも戦時下の満州だったり、同盟国であったドイツであったりと、日本が軍国主義に突き進んでいる時代が色濃く反映されています。
諜報員たちが追い詰められているのも、全て織り込み済みの筋書きの一部であり、ハラハラさせてもらいながらも、スカット終わるところが、このシリーズの魅力を醸し出しています。
満州やヨーロッパを舞台に、ソ連や海軍のスパイたちとのやり取りがあったり、結城中佐の魔王っぷりが堪能できたりと楽しめる作品です。
8、『太平洋食堂』
明治時代に社会の不平等や貧困の差、部落差別などに立ち向かい、医師でもあった大石誠之助の話です。
ここがポイント
明治維新の少し後に和歌山県の新宮で、日本を変えようとした男がいたのです。
医師である彼は、医院の向かい側に太平洋食堂という名の食堂をオープンし、洋食を提供しつつ、各地の新聞なども閲覧できる施設を作ったのです。
また医師として、患者を貴賤を問わず診察し、貧しいものからは治療費を求めなかったのです。
そんな彼の新宮での暮らしや、幸徳秋水らとの親交を通して、大逆事件に巻き込まれるまでの経緯が綴られています。
作者の大石誠之助への思いがひしひしと伝わってくる作品です。
まとめ
柳広司氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
その幅広い作風の陰には、綿密な取材と緻密な調査に裏付けられた努力が伺えます。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。