自分自身に対する様々な葛藤を描く、村山由佳氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、不動産会社に勤めたり、塾講師などを経て、1993年に「天使の卵 -エンジェルス・エッグ-」という作品が第6回小説すばる新人賞を受賞して作家デビューを果します。
そして2003年に「星々の舟」という作品で、第129回直木賞を受賞して、名実ともに有名作家の仲間入りをします。
村山由佳おすすめ作品8選をご紹介~愛と狂気がほとばしる描写~
爽やかな青春小説から深い官能を描いたものまで、数多くの恋愛を描いてきた村山氏の作品は、女性が自分を強く主張できず、男性にふりまわされたりなど、酷い振る舞いも我慢して受け入れるシーンがたびたび登場します。
彼女の作品には、今、恋愛に苦しんでいる女性たちを救うヒントとなる言葉が満載なのです。
そして私生活でも、良いことも、悪いことも経験してきたおかげで、いつの間にか色々なことが把握できて、ものごとの考え方が多層的になってきたとのことです。
そんな村山由佳氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、どうぞお楽しみください。
1、『天使の卵 エンジェルス・エッグ』
予備校生の青年が、8歳年上の精神科の女医にひとめ惚れするところから始まる王道な純愛の話です。
何と電車の中でひとめ惚れしたのは、入院中の父親の主治医であり、現在の恋人の姉だったのです。
女医の春妃は夫が自殺したことで、恋をすることを拒んでいたのですが、青年、歩太の真直ぐな気持ちに少しづつ心を開いていくのです。
人の命は平等ではなく、命が果てる時を正確に事前に知ることなど、ほとんど不可能なのです。
主人公、歩太の初々しくも激しい恋心が幸せなものであってほしいのに、襲いかかる試練があまりにも大きすぎたのです。
ここがポイント
忘れかけていた感情を思い出させてくれる、至極の恋愛作品です。
2、『すべての雲は銀の・・・Silver Lining』上・下
恋人を実の兄に奪われてしまった弟の祐介は傷心を癒すために、大学を休み、信州、菅平の民宿「かむなび」で住み込みのバイトをする話です。
傷心の祐介を受け入れてくれた住み込みバイト先の優しい仲間たち、明るく強く生きている彼らも実は、辛い過去や心の痛みを抱えていたのです。
結局、人は皆、何かしらの壁にぶつかったりして、悩みを持つけれども、そこからどういう風に立ち直るか、またその過程が大事だということが分かります。
ここがポイント
人に傷つけられた心は、また人によって癒されていくのです。
悩みを抱えた人たちが、強く前向きに生きていこうとする姿が眩しく映る作品です。
3、『星々の舟』
家族それぞれが絡まり合い、織りなす風景を描いた6編からなる連作短編集です。
兄妹の禁断の恋、不倫、イジメや暴力など、一つひとつがとても考えさせられるテーマであり、人の心の奥底に確かに存在する価値観や体験が描かれています。
家族は所詮、孤独な人間の集まりであると簡単に割り切れるものでもなく、同じ空間にいると依存し合ってしまうものなのです。
知らず知らずのうちに、または当たり前のように互いの人生に深く干渉して、影響を与えてしまっているのです。
村山氏の言葉を紡ぐような、素晴らしい洞察と表現力には感服してしまいます。
ここがポイント
確かに「つかまってしまう」作品であることに、間違いありません。
4、『ダブル・ファンタジー』上・下
脚本家の奈津は才能に恵まれて人気もあったのですが、夫の抑圧から逃れるために、 別居を選択してしまう話です。
それは長く敬愛していた演出家の志澤の意見であり、束縛から解き放たれた女性が、徐々に性に目覚めていくのです。
そしてさらに夫からも志澤からも解き放たれた奈津は、本能のままに更なる性欲にのめり込んでいきます。
しかし、結局のところ、どの男といても奈津自身はどうしようもなく、ひとりきりであり、それこそが人間であることの本質を示していたのです。
そして恋愛でしか得られないものを、また違ったものに落とし込まないと、奈津はこの先も欲求のままに生きていくことになってしまうのです。
ここがポイント
恋愛の形の特殊性に驚いてしまう作品です。
5、『放蕩記』
母と娘の確執を、現在と過去の出来事を交えながら展開していく、村山氏の半自伝的な話です。
小説家の夏帆は母親への畏怖と反発を抱えながら、今まで生きてきたのです。
反発の果ての密かな放蕩、結婚と離婚、そして38歳になって、あらためて母娘関係と向き合っていくのです。
自分の分身として産んだ娘が、思うとおりに育たないことに、母は愕然としたのでしょうか。
それによって夏帆は多くを隠匿することを学んでいったのです。
ここがポイント
母という存在が、子どもの成長に大きな影響を与えるという事が、ひしひしと伝わってくる作品です。
6、『花酔ひ』
東京の呉服屋の一人娘の麻子と誠司、京都の葬儀社の社長令嬢の千桜と正隆、2組の夫婦によるW不倫の話です。
愛がないわけではありませんが、夫婦だから一緒にいるという日常のフラストレーションを解消する様な情事に出逢い、歯車が狂っていく様子が、4人の視点から描かれています。
ここがポイント
それぞれが社会的地位もあり、子どももいて大切な家庭もあるのに、心と身体は別ものだという事が分かります。
押さえられない情欲は如何ともし難く、理性よりも肉欲に溺れてしまう彼らの様子は、人間の真の姿の一面を辛辣に描き出しているのです。
理性と本能の葛藤が、分かり易く描かれている作品です。
7、『ミルク・アンド・ハニー』
「ダブル・ファンタジー」の続編であり、奈津のその後を描いた話です。
ここがポイント
相も変わらず、奈津は性と情の激しい女性ですが、外面とは裏腹に深層に男を支配するような強い自我を感じます。
社会的、経済的な地位を持ち、知的な仕事をしながらも、何故か性は別次元であり、奈津の中で蠢いているのです。
踊らされているようで、男を操っているような、お淑やかにみえて、淫乱で淫靡な女なのです。
決して男には見せない女性の秘密の部分をさらけ出し、奈津が書く愛欲にまみれたメールの文章に、村山氏の女性そして作家としての覚悟と実力が見える作品です。
8、『猫がいなけりゃ息もできない』
村山氏が愛猫「もみじ」と過ごした17年と10ヶ月の間の出来事や思い出や旅立ちの時を綴ったエッセイです。
いつか来る別れと分かっていても、心でどんな覚悟をしたって、その不在感は推し量れないものなのです。
どんなに手を尽くしたとしても、もっとやれることがあったんじゃないかとか、そう思ってしまう後悔を止められなくなってしまうのです。
ここがポイント
人であれ、動物であれ、愛するものと過ごした、かけがえのない日々は何物にも代えがたいものなのです。
命を看取る覚悟と、何物にも勝る猫への愛情に思わず目頭が熱くなってしまう作品です。
まとめ
村山由佳氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。