悩みながらも、その時々で、必要性のあるものを描く、早見和真氏のおすすめの作品9選をご紹介させていただきます。
國學院大學文学部に在学中の20歳の時、あらゆる出版社に飛び込み営業をした結果、雑誌「AERA」の現代の肖像や、「月間PLAYBOY」や「SPA!」などで、ライターとして、活動していました。
大学卒業後は新聞社への内定が決まっていたのですが、3年留年し、退学したため取り消しになってしまいます。
2008年に、自らの経験をもとに書いた名門高校野球部の補欠部員を主人公にした「ひゃくはち」という作品で、小説家デビューを果します。
早見和真おすすめ9選をご紹介~あらゆる角度から物語を描写~
2015年に「イノセント・デイズ」という作品で、日本推理作家協会賞、2020年には「店長がバカすぎて」で、本屋大賞のノミネート、そして「ザ・ロイヤルファミリー」で、JRA賞馬事文化賞、第33回の山本周五郎賞を受賞しています。
2021年には初のノンフィクションである「あの夏の正解」が、2021年Yahoo!ニュースー本屋大賞ノンフィクション本大賞にノミネートされ、同一著者による、本屋大賞とノンフィクション本のノミネートは、史上初のことでした。
そんな早見和真氏のおすすめの作品9選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『ひゃくはち』
神奈川県の名門野球部の補欠部員、青野雅人が主人公であり、高校時代と現代の場面が交互に描かれる話です。
野球強豪校に一般入試で入部した青野は、周りとの差を感じながらも、同じく一般入試で入部した親友、ノブと共に日々練習に励んでいました。
そして最後の夏の大会に二人は、ベンチ入りを誓い、チーム全体も甲子園予選に向けて士気が高まる中、親友のある問題が発覚してしまうのです。
強豪校の部員としての甲子園という存在、親友に対する想い、高校生という年齢の全てが錯綜する中で出した結論は果たして、正しかったのでしょうか。
ここがポイント
印象的だったのは、主人公の父親の手紙であり、この存在が、主人公を自分の価値基準に素直に行動させる理由になっていた点が心に刺さります。
2、『ぼくたちの家族』
母が脳腫瘍で余命一週間と宣告されたことを切っ掛けに、バラバラだった家族のそれぞれの隠し事が露見し、再び一つになっていく話です。
どんな家族でも起こりえる事態を、リアリティ感タップリに描かれている家族物語です。
ここがポイント
家族の気持がバラバラの若菜家で、中心的な存在の母、玲子の脳に癌が見つかり、父と二人の息子は突然の出来事に狼狽しつつも、母の為にできることを模索していきます。
決してドラマチックな展開ではありませんが、それだけにとても他人事とは思えない内容になっています。
各章は其々の視点で描かれていますが、母、玲子の章では、病魔が進行していく様子が、恐怖にも感じられてしまいます。
考え方の違う、父と息子たちの章は、個性が出ていて、興味深い内容になっています。
家族のあり方について、深刻に考えさせられる作品です。
3、『イノセント・デイズ』
元恋人に別れを告げられ、ストーカー行為の末、放火殺人事件を起こし、死刑となった田中幸乃の出生時から、幸乃に関わってきた人たちが見た彼女の姿が描かれている話です。
元恋人の妻と双子の1歳の子どもの命を奪い、確定死刑囚となってしまった田中幸乃は、放火殺人という残忍極まりない犯行で、マスメディアの報道で、悪女のイメージが作り上げられていくのです。
しかし、彼女と関わった人たちの証言から、見えてくる実像は、悪女とは全く別のものだったのです。
冤罪を疑うも、当の本人が罪を認めている中、死刑執行へのタイムリミットは迫り、否が応にも、緊迫感は加速していきます。
不運という生易しい言葉で、言い表すことが出来ない真実に、心が潰されそうになってしまいます。
ここがポイント
どこかで誰かの良心が、きちんと働いていれば、彼女の運命は、違うものになっていたはずなのです。
何か救いが、欲しかったと思える作品です。
4、『店長がバカすぎて』
書店で働く契約社員の谷原京子が、バカすぎる店長、山本猛の下で「辞めたい」と思いながらも、本への愛情で頑張っていく話です。
毎日店長のバカさ加減と、空回り具合にイライラする書店員の京子は、面白いと感じる本をちゃんと売りたい気持ちもあり、切実で誠実なのです。
でも、決して楽な仕事ではなく、当然浮き沈みもあり、何よりも本の批評は、人それぞれだし、誰かを救う物語が、人によっては、刃物のように突き刺さることだってあるかもしれないのです。
そんなことを考えさせられる、真面目な側面もあるのですが、素直に笑えるエピソードもたくさんあるのです。
ここがポイント
実はこの店長、本当はキレ者なのか、いや、本当のバカなのか、最後まで、謎に包まれてしまいます。
後半の展開に驚いてしまう作品です。
5、『新!店長がバカすぎて』
店長がバカすぎての第二弾であり、地方に移動になっていた店長が、3年ぶりに武蔵野書店吉祥寺本店に店長として復帰し、またしても、京子の苦悩が始まる話です。
本店に戻ってきた山本店長は、以前と何も変わらず、相変わらず、周りをイライラさせてしまうのです。
キャラの濃い店員や、社長ジュニアの登場、正社員になった京子も結婚やキャリアアップについて、新たな悩みが生まれ、ドタバタは一層加速していきます。
ここがポイント
謎多い店長の根拠のない自信と自己肯定は、羨ましくなってしまうくらいであり、もしかしてやり手?と思わせるくらい不思議なのです。
真面目に生きようとして、バカをみるということは儘ありますが、その切り口で物語が綴られる痛快さが味わえる作品です。
6、『ザ・ロイヤルファミリー』
競馬を軸に、親と子、先輩と後輩、師と弟子へと「継承」される想いを描いた話です。
競馬小説ですが、競走馬ではなく、馬主に焦点を当てた馬主小説という趣で、家族を20年にわたって描く様子は、まさに大河ドラマのようでもあります。
馬よりも馬主に主眼を置き、時に重要な大レースであっても、主人公の語りで、あっさりと済まされてしまうこともありますが、それでも競馬の持つ魅力、魔力のような力、熱気は十分に伝わってきます。
ここがポイント
負けても、負けても、なお、立ち向かいたくなり、そして長く立ち向かい続けることが、できたものだけが見ることのできる景色がある競馬というギャンブルの魅力を感じ取れるのです。
読み終えるのが、もったいないと思える作品です。
7、『笑うマトリョーシカ』
政治家を志す高校生が、その友人との運命的な出会いから始まり、時を経て清家が政界ナンバー2の官房長官に上り詰めるまでの過程を悲喜こもごものストーリー展開とミステリータッチで描いた話です。
頼りない友人を優秀な男、鈴木が、ブレーンとなって操り、大物政治家に仕立て上げていくという、そんな単純な立身出世話ではないのです。
何か不気味であり、最初から最後まで、登場人物全てが信用できなく、きっと何かがあると思い、気構えて読んだにも拘わらず、予想は見事にも外されてしまいます。
ここがポイント
特に清家の母親は想像を絶する人物であり、彼女の人生の方が、息子のそれより、ずっとドラマチックに思えてきます。
予想は次々に覆され、マトリョーシカの最後の顔の主は誰だったのか、最後まで翻弄される作品です。
8、『八月の母』
壊れた家庭で育った娘は、壊れた母親にしかなれないのだろうか、本当にこの負の鎖を断ち切れないのだろうか、美智子の娘、エリカ、エリカの娘、陽向のそれぞれの生い立ちを様々な視点から描いた話です。
実際に愛媛であった女子高生集団暴行死をモデルにして、物語りは進行していきます。
発端は父親の死が切っ掛けで、母親が他の男と駆け落ちをするのですが、娘の美智子が、ついて行ったのが、不幸の始まりだったのです。
母の生活は目論見どおりにはいかず、美智子もまた、母と同様の道を辿ることとなってしまうのです。
先の見えない生活は美智子の娘であるエリカにも受け継がれ、やがて団地での暴行事件へと繋がっていくのです。
ここがポイント
地元から出ていきたくても、その場に縛られて、流されるままに暮らしていき、母性はあったのかもしれないですが、大人になり切れない母の限界のようなものを感じてしまいます。
果たして、警察や行政が介入するタイミングはなかったのでしょうか、暗澹たる気持ちになってしまう作品です。
9、『あの夏の正解』
自身も名門高校野球部出身で甲子園を目指した著者が、コロナにによって、甲子園出場の夢を奪われた高校球児や指導者に対して、鋭く問いをぶつけ、それぞれの現実を受け入れようとする過程を追ったドキュメンタリーです。
コロナ禍で開催中止となった2020年の夏の甲子園、高校球児の目標として絶対的な存在だったものが、消えてしまったのです。
ここがポイント
この状況を球児と監督はどう思って、どのように行動したのかを、自らも野球名門高校の球児であった著者が切り込んだルポルタージュです。
対象となったのは、愛媛・済美高校と石川・星稜高校であり、大会中止が発表された5月下旬からチーム解散までの各選手、監督の懊悩と決断が描かれています。
皆が時分の思っていることを真剣に考え、最期には、いい経験ができたと語っていることが全てだと思います。
まとめ
早見和真氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非、この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。