武士の矜持を描く、青山文平氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、経済関係の出版社に18年勤務した後、フリーライターとなります。
2011年に青山文平名義の「白樫の樹の下で」という作品が第18回の松本清張賞を受賞し作家デビューを果します。
青山文平おすすめ8選をご紹介~味わいのある大人の文章を描く~
その後も2015年には「鬼はもとより」という作品で第17回大藪春彦賞、2016年「つまをめとらば」という作品で第154回の直木賞を受賞しています。
江戸中期の成熟した時代にあってなお、懸命にもがき、生きる人々を描く時代作家として注目されています。
作品を書く時には設計図を作らず、素材をA、B、Cと分けて、大体こういう世界と決めたら、後は指任せで、降りてくるそうです。
そんな青山文平氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『白樫の樹の下で』
剣術の稽古に励む貧乏御家人三人の話です。
戦国時代とは打って変わって、すっかり人を切るという事が無くなってしまった江戸時代において、剣の道に進む男たちの姿が描かれています。
敢えて武士(もののふ)とはいかなるものなのか、その在り様や精神の神髄というところを捉え、そしてそれを象徴するものとしての刀剣、或いはそれを腰に差す意味を問い続けているいるように思います。
要所要所に微妙な怪しい気配を漂わせ、ただごとではない緊張を強いてくる言葉の組み合わせがあります。
江戸中興期の平和な時代に発生する殺人事件と、時代ゆえに真剣を扱ったことのない木刀師範の村上登がどんどん深みに嵌っていくのです。
ここがポイント
最後は度重なるどんでん返しが用意されていて、ミステリーとしても秀作です。
2、『かけおちる』
江戸後期、財政難に苦しむ藩の新事業創出の責任者である阿部重秀が主人公の話です。
柳原藩執政の阿部重秀は27年前に妻に逃げられ、また、娘の理津もかけおちをしてしまうのです。
真相が明らかになるにつれ、二人の女の哀しい愛があることが分かったのです。
かけおちというある種の背徳行為が、もし、家族の為であったのなら、残されたものは、なにとどう向きあっていけばいいのでしょうか。
本作の登場人物全員が互いを想うあまり、口を閉ざし、終わらない苦悩の中で彷徨い続けなくてはいけないのでしょうか。
ここがポイント
武士の矜持と女の一途さとをテーマとした味わいのある作品です。
3、『約定』
緩みのない文章で武士の姿を浮き彫りにした、6編からなる短編集です。
全て、刀絡みの話であり、切り合い用の武器としての刀ではなく、もはや自害用の道具と化した刀であり、文治の世にいかに生き、いかに死すか全編を通して、男同士・個に対する義、武士としての覚悟が描かれています。
ここがポイント
派手な立ち回りも大きな事件も起こりはしませんが、武士の矜持とは何であったかを示唆してくれています。
等身大の武士と理想の武士を考えさせてくれる作品です。
4、『鬼はもとより』
貧しい藩の藩札による、財政立て直し策を巡る男たちの熱い思いの話です。
江戸時代において、通貨が不足すると、各藩が独自に領内で紙幣(藩札)を発行し、財政難の解消を試みたのです。
主人公の奥脇抄一郎は浪人となった後に、江戸で藩札の指南役となったのです。
ここがポイント
剣が役に立たない時代において、最大の敵は貧困だったのです。
度重なる飢饉による財政難や士気の低下、組織崩壊により座して死を待つ極貧藩からの依頼を受けて、自分が考えた方策を実行に移していったのです。
武士としても生き様が潔く描かれている作品です。
5、『つまをめとらば』
江戸時代の武家の男女の関りをモチーフにした、6編からなる短編集です。
舞台は江戸の町人文化が真っ盛りの江戸後期であり、武士のメンツや建前がある一方で、当時の鷹揚な町人風俗に馴染みつつも、うろたえる下っ端の武士たちが愛くるしく描かれています。
また、江戸時代と言えば、数々の名将が功績を残した時代とというイメージが強いのですが、本作品は歴史の表舞台に出ることのなかった女性の強かさも描いています。
ここがポイント
女性の秘めたる強さ、一筋縄ではいかない逞しさを感じてしまう作品です。
6、『伊賀の残光』
伊賀忍者の末裔が武士としての誇りをかけて、友人たちの死の真相を探っていく話です。
剣の達人でありながら、市井に生きて、門番のお役目とサツキ栽培で生計をたてている、主人公の山岡晋平の人物造形が何とも言えず、いいのです。
武士の対面に拘らず、自分が接する人々と腹を割って付き合う姿勢に惹かれてしまいます。
情景描写が大変巧みであり、江戸の街の息遣いが伝わってくるので、臨場感がタップリに味わえます。
そして友人たちの死の真相が判明し、彼らの意外な一面を知って晋平が「頑張った」と呟く場面は感無量です。
ここがポイント
人生の生き様を考えさせられる、重厚な時代小説です。
7、『半席』
徒目付、片岡直人を主人公にした6編からなる連作短編集です。
分別のある侍たちが何故、武家の一線を超えてしまったのか、誰が何をやったのかは分かっているけれど、その動機が分からない事件の謎を解き明かしていきます。
どの事件も悪意があったわけではなく、些細な行き違いや当人にとっては絶対に許せない禁句によって、衝動的な行為なのが切なく感じてしまいます。
ここがポイント
侍として生きるための矜持が色濃く描かれていて、末端の武士の哀しい生き様に同情を隠せません。
事件の裏にある本質的な部分は、現代にも通じるところがあると思ってしまう作品です。
8、『跳ぶ男』
江戸の末期に道具役(能役者)の長男として生まれた屋島剛は幼くして母を亡くし、また、三つ年上の友の岩船保も失い、藩主の身代わりとなり、弱小の外様班を救う為に能を極めていく話です。
金もなければ、土地もない打ち捨てられたような小藩を舞台に、同じように打ち捨てられた武士の少年が「能」を通して、自分の存在価値を確認し、更にとんでもないことをしでかすことになるのです。
ここがポイント
武士の世界での「能」に関わることにより、彼は自分自身のなかにある、さまざまなものを知ることになるのです。
能というものの世界と、不遇な少年の中に秘められた力に圧倒される作品です。
まとめ
青山文平氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
時代小説が苦手だと思っているあなた、一歩だけ足を踏み入れてください。
きっとその面白さにハマってしまいます。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しさがひろがりますよ。