本当のミステリーが堪能できる、横溝正史氏のおすすめの作品12選をご紹介させていただきます。
横溝氏は1902年に神戸市に生まれ、19歳の時に書いた短編作品「怖ろしき四月馬鹿」が雑誌、好青年の懸賞に入選して作家デビューを果します。
終戦後、探偵小説の執筆が解禁されると、かの名探偵、金田一耕助を生み出し、現代まで読み継がれる数々の名作を生み出すのです。
横溝正史おすすめ作品12選をご紹介~これぞ本格ミステリーの神髄~
しかし1960年代に入ると、松本清張氏の登場により社会派ミステリーブームがおこり、探偵小説に陰りが見え始めます。
そんな中、1969年に「八つ墓村」という作品が週刊少年マガジンで漫画化されて、注目を集めます。
そして探偵小説復刻ブームが起こり、角川文庫に収録されるやいなや、凄まじい勢いで売れ始めます。
そんな横溝正史氏のおすすめの作品12選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『本陣殺人事件』
表題作の他に「車井戸はなぜ軋る」と「黒猫亭事件」が収められています。
「本陣殺人事件」は金田一耕助が初登場した作品であり、戦前を舞台にしていて、他作品とは趣を異とし、日本建築を舞台とした密室殺人を題材にしています。
ここがポイント
密室トリックも見事ですが、殺人よりも殺人に至る経緯や宿場本陣の旧家の一柳家の人間関係の方が面白く楽しめます。
手紙という形で進められていく悲しい事件「車井戸はなぜ軋る」と顔のない死体に挑む「黒猫亭事件」もおどろおどろしい雰囲気があって楽しめる作品です。
『獄門島』
戦友であった鬼頭千万太から、紹介状と奇妙な遺言を託された金田一耕助が、古い因習の残る島で起こった殺人事件に、挑む話です。
当時の世相を反映した復員詐欺や封建的な風土、奇妙な見立て殺人等、横溝氏の作り出す世界に引き込まれてしまいます。
ここがポイント
犯人の意外性を補強するトリックとミスリードを的確に配置しつつも、真相に至る伏線も張り巡らされています。
真にミステリーの教科書ともいえる傑作の中の傑作です。
『八つ墓村』
実際にあった、津山30人殺しがモチーフとなっていて、古い因習が残る閉鎖的な集落で起きる事件の話です。
戦国時代の落武者殺しと、数十年前の32人殺し、それらが絡んで、狂気の村の大地主の跡取りに突如指名された男は、自分の出生の秘密を探るために村に乗り込んでいくのです。
過去と未来が交錯する入り混じった謎を解決するため、金田一耕助が登場し事件に挑んでいきます。
ここがポイント
横溝氏の味わいのある独特な雰囲気に酔いしれてしまう作品です。
※津山30人殺し:1938年5月21日未明に岡山県の集落で発生した、一人の男による大量殺人事件であり、犯行後、犯人は自殺してしまいます。
『犬神家の一族』
信州財界一の巨頭、犬神財閥の犬神佐兵衛が亡くなり、残した遺言状がドロドロの戦いを生むストーリー展開となっていく話です。
何度も映像化がされていて、湖から突き出る二本の足が有名で強く印象に残っています。
ここがポイント
日本の旧家を舞台にした悲劇を描いたものであり、戦後の昭和中期のミステリー作品の傑作ともいえます。
最後まで息をつかせない、金田一耕助の推理と真相への疾走感が堪らない作品です。
『悪魔が来りて笛を吹く』
毒殺事件の容疑者の椿元子爵が失踪してから、椿家に悲劇が起きる話です。
近親婚の続いた一族の底知れぬ淫靡さと、誰も語らない一族の不祥事等、謎めいた雰囲気が漂ってきます。
戦後の混乱から、戦前に栄華を極めた華族が没落していく様などが克明に描かれています。
ここがポイント
そして殺人の起きる時刻に流れるフルートの音色に恐怖を感じてしまいます。
『女王蜂』
伊豆沖の小島の月琴島から、やってきた美女を取り巻く男たちが次々に死んでゆく話です。
人間の愛欲にまみれ切った物語が月琴島、伊豆、東京を舞台に展開していきます。
ここがポイント
終戦の混乱、血脈に翻弄される女の生き方、そうせざるを得なかった不幸が描かれていて、差別表現が昭和という時代をひしひしと感じさせてくれます。
そして予想外の犯人、その動機こそが世にもおぞましいかぎりなのです。
哀しい場面もありますが、とてもロマンチックな作品です。
『幽霊男』
ヌードモデルを殺害した後、ポーズをとらせる猟奇的な殺人を繰り返す、幽霊男と名乗る怪人が登場する話です。
ここがポイント
ミステリーというよりも、風俗小説の雰囲気が漂い、戦後の復興の陰なる部分を敢えてスリラーとして描いています。
スピード感あふれる物語で飽きさせない展開で、異様な姿の怪人の登場から怪しげな館や、ホテルでの惨劇や劇場での劇的な死体の出現とか、様々なイメージや趣向が凝らされています。
ミステリー的仕掛けはしっかりとされているので、十分に楽しめます。
『死神の矢』
表題作の他、短編「蝙蝠と蛞蝓」が収録されている作品です。
「死神の矢」は自分の娘の婿を弓勢比べで選ぶことにした、考古学者の話です。
候補者の内の一人が見事に的を射抜くのですが、その直後に殺人事件がおこり、さらに第二、第三の殺人事件に発展してくのです。
登場人物たちの人間模様とか心理描写がしっかりと描かれているので、イメージが分かりやすく、リアル感満載です。
また短編「蝙蝠と蛞蝓」は、アパートの住人が書いた原稿とおりに、アパートの裏に住む女性が殺され、警察に疑われる話です。
ここがポイント
日常の裏に恐ろしい秘密が隠されていたりして、珍しく金田一耕助のうさん臭さが全開の作品です。
『悪魔の手毬唄』
四方を山に囲まれた、鬼首村を訪れた金田一耕助が、村に昔から伝わる、手毬唄の歌詞どおりに死体が異様な構図をとらされた殺人事件に遭遇する話です。
話の背景には二十年前に迷宮入りになった事件が絡んでいて、被害者と加害者の謎が浮き彫りにされていきます。
土着風俗と時代背景を織り交ぜた、金田一耕助の考察の世界に引き込まれてしまいます。
ここがポイント
男女関係のもつれや憎しみが、このような惨劇を生み出してしまったのです。
読むことが途中で、止められないくらいの魔力を持っている作品です。
『白と黒』
東京の近郊の団地で起こった、怪文書騒ぎがもたらした殺人事件に、金田一耕助が挑んでいく話です。
ここがポイント
高度経済成長期の高層団地が舞台であり、いつもの作風とは異なり、都会的な作品に仕上がっています。
身元が判明している被害者が何故、顔のない死体にされたのかという謎と、現場に残された「白と黒」という言葉のもつ意味の不思議さも謎めいています。
伏線の回収も見事であり、その頃の時代背景も良く分かる作品です。
『仮面舞踏会』
4度の離婚歴を持つ女優の鳳千代子の元夫たちが、次々に不審な死を遂げ、その真相解明に金田一耕助が乗り出していく話です。
ここがポイント
金田一を除く登場人物のほとんどは何かしらの仮面を被っていて、他人に相対していて、皆どこか怪しく見えるような仕掛けが施されています。
戦争を挟んで没落した華族の悲劇が描かれ、猟奇的な要素は感じないのですが、人間の心の暗部が抉り出されています。
タイトルの絶妙さに感服してしまう作品です。
『病院坂の首縊りの家 上・下』
金田一耕助、最後の事件であり、病院坂の首縊りの家で起きた、生首風鈴事件から20年、かっての惨劇の記憶を呼び覚ますような事件の解明に金田一耕助が挑んでいく話です。
ここがポイント
現在の事件を追う中で、過去の事件の真相と共に、そこにある悲しき人間ドラマが浮かび上がってくる展開になっています。
多彩なトリックと伝統の因習や奇怪な小道具が醸し出す雰囲気に酔いしれてしまいます。
十分に金田一ワールドが堪能できる作品です。
まとめ
横溝正史氏の作品はいかがでしたでしょうか。
名探偵、金田一耕助が活躍する、数々の事件を楽しんでいただけましたでしようか。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
どうぞ本格ミステリーの神髄を味わってください。